僧帽弁閉鎖不全症の手術記録
2019年8月に僧帽弁閉鎖不全症の手術を受けた記録です. 単なる自分のための記録ですが,同様の手術をされる方の参考になれば.
TL;DR
- MICS(低侵襲心臓手術)は低侵襲で回復が超早い
- 長時間同じ姿勢でいることで体に痛みが出たりする人は,持ち物やケアに注意
- 医療スタッフは情報連携が取れないことが多いので,こちらから音頭をとってあげる必要がある
手術までの経緯
- 2013年の健診で心電図検査がD判定(要経過観察)
- 「左脚前枝ブロック」という検査結果
- 2014年の健診では心電図検査はA判定(異常なし)で問題がなかったが,医師診察時に「心音がピュアでない」という表現をされ,近所のクリニックで受診
- 初診の担当医は「心雑音なし」という所見だったので,循環器の医師に後日診てもらう
- 循環器の医師は「心雑音あり」という所見
- 聴診器を借りて自分自身で聞いてみても,「グシャ」っとした音が心音に混じっているのがはっきりわかる
- 胸部X線検査で心胸郭比には異常なし
- 心電図波形のJ点(こちら3ページ目参照)が上昇する傾向が見られる
- 心エコーにて,僧帽弁の閉鎖不全による左心室への逆流が見られる
- たまに動悸(30秒ほど続く頻脈)が発生することがあったが,その原因はこれによる可能性が高いとの所見
- さらに精密検査するために,急性期病院に対して紹介状を書いてもらう
- 急性期病院における検査・診察と経過観察
- 経食道心エコーで精密検査
- クリニックと同様に僧帽弁閉鎖不全症との診断
- 手術適用は自覚症状,逆流量,心臓への負担(BNP値,心胸郭比)で判断するが,逆流量以外は症状が無いので経過観察となる(半年から1年の周期で,心エコー検査,血液検査,診察)
- 歯科治療前に抗生物質を服用(1回8錠!)するようになる(出血時に弁の炎症を予防するため)
- 経過観察の間も,健診の心電図検査では異常はなかった
- 経過観察の間も,1ヶ月に1度くらい動悸は起きていた
- 経過観察の間,テニスを毎週続けていたが,息切れなどの自覚症状は全くなかった
- 2019年診察で,医師から手術の打診
- 左心室の大きさが46mmまで拡大している(以前の検査からの変化量なのか,収縮時・拡張時の変化量なのか,よく理解できていない)
- 手術適用のレベルになってきたため,症状が出ておらず心機能の高い今の年齢のうちに手術することを打診される
- カテーテルでの手術は症状が適用外のためNG
- おそらく弁置換ではなく弁形成術になる
- 診察前に色々調べて行き,MICSの適用可能性をこちらから質問
- 担当医が知り合いの医師がMICSの経験が豊富とのことで,紹介してもらい転院した
- 転院先担当医の診察
- 手術を前提に検査,診察を受けた
- MICSが適用できるとの所見
- 手術による命に関わるリスクは0.5%以下で最低レベルとの評価
手術
病状
- 病名:僧帽弁閉鎖不全症
- 僧帽弁の合わさりがずれていて,左心室から左心房へ血液が逆流している
- 逆流量は90mm(67%)で重症レベル
- 弁は両方(前尖・後尖)とも捲れている(腱索が緩んでいるか切れている)
- 後尖は完全にベロンと捲れている
- 前尖は若干捲れている
- 後尖は手術的に容易(前尖のみ,というのが難しい)らしい
手術方法
- 実施医療行為:僧帽弁形成術(MICSアプローチ)
- 弁形成内容
- 前尖・後尖の腱索の形成
- 人工弁輪を使った弁輪形成
リスク
- 術前検査で,動脈硬化や肺血管や冠動脈や脳に異常は全くない
- 合併症のリスクは輸血の必要性が1割,不整脈は3割くらいの人がなる
- その他手術である以上リスクはあるが,病状や年齢や検査結果からは最低レベルのリスク
結果
- 予定通り問題なく手術が終わり,術中のリスク発現もなかった
- 術後の心エコーの結果,弁はぴったりと合わさっており,100点の手術と表現された
- 検査画像を見て「あ,弁ってこんなしっかり閉まるものなんだ」と思ったw
入院期間の時系列イベントと主観
入院から退院までのイベントと感じたことなどを表にまとめました.
MICSの侵襲の低さと回復の早さ
侵襲
手術において,以下の侵襲がありました.
- 皮膚切開・孔
- 右乳頭右上部に4cmの傷
- 右胸部に1cmの傷 x5
- 右鼠径部に2cmの傷
- 右頸部に0.5cmの傷
- 術後に入っていた管・針
- 人工呼吸器
- 尿カテーテル
- 点滴針(右頸部)
- 点滴針(左手手背,静脈)
- 点滴針(左手手掌,動脈)
また,術後から退院直前まで,以下のモニタをつないでいました(体表に付けるだけ.)
- 心電計(左胸部,左腹部,右胸部の3箇所)
- SpO2計(左手指先)
従来の胸骨正中切開に比べると,MICSによる手術は驚くほど傷が少なく肋骨も切らないので,侵襲は非常に少ないです.
回復
術後は次のような回復具合でした.
- 術後1泊ICUに入った
- 手術当日の夜には人工呼吸器が取れた
- 翌日には食事し,自立し,ゆっくりだが歩行もでき,一般病棟に戻れた
- 翌日昼時点で,左手手背の静脈点滴針以外のすべての管・針が取れた
- 術後4泊で退院できた
年齢的に若いこともあり,すぐに動けて一般病棟に戻れたのは,ICUのスタッフも驚いていたくらいの早さでした.
ただし,そうは言っても術後の辛さは相応にあるので,ある程度覚悟は必要です(MICSが低侵襲で回復が早いことを知っていただけに,術後の辛さを若干舐めていた気持ちもあり,結構キツイな・・・と感じてました.)
痛み・苦痛ランキング
入院中に痛み・苦痛がキツかったものベスト3がこちら.
- 人工呼吸器
- 取り外しまでの呼吸困難さ
- やはり呼吸できないのが一番つらい(死ぬ時は窒息死以外を希望・・・)
- ただ,気管に空気を送っている以上窒息するはずはないので,苦しくてもパニックにならないように,そのことを思い出すとよいかもしれない
- 首肩の痛み
- 自分の場合,頚椎が先天的に変形している上に,ほとんど癒着してしまっているので,首肩がコリやすく背中や腰も含めて痛みが出やすい
- 手術やICUで長時間同じ姿勢をしたせいか,非常に強い痛みが出てしまった
- 正直手術痕の痛みなんかよりも全然痛かった
- ドレーン抜き
- 血液や体液を排出するドレーン(管)を抜いて,孔を1針くらい縫う
- 普通に痛い
- まあこれは耐えるしかないかと・・・
入院持ち物
入院前に作っていた,持っていくものリスト
- 手続き類
- 健康保険証,診察券,保険会社請求用診断書,入院書類,印鑑,クレカ,筆記用具
- 衛生用品類
- 偏頭痛薬,耳栓,洗面用具(歯ブラシ,歯磨き粉,綿棒,石鹸,シャンプー,カミソリ),マスク,ハンカチ,ティッシュ,手拭きシート,除菌ウェットシート,タオル,バスタオル,風呂タオル,コンタクト,メガネ,メガネ拭き,メガネケース
- 衣類
- 室内履き(かかと付き),ハンガー,下着・着替え,羽織るもの,パジャマ
- 暇つぶし類
- iPad,MacBook,iPhone/iPadスタンド,有線イヤホン,無線イヤホン,社用iPhone,充電器(MacBook,AppleWatch,iPhone,iPad)
- その他
- ハンディ扇風機,ビニル袋
持っていかなかったけど,あるとよかったなと事後思ったもの
- 汚れてもよい服
- 入院中は体液や薬剤で汚れやすい
- 体が動きづらくても脱ぎ着しやすく,処置や看護を受けやすいよう前開きのものがよい
- ICUに持っていくものは全部名前書く必要があるので,名前書きたくない服は持っていかないほうがよい
- 入院用に使い捨ての安いものを買っていくと,帰りの荷物も増えなくてよいかも
- 温熱パック
- 自分のように頚椎に不安があったり首肩がコリやすい人は,温める器具を持っていくとよい
- 今回の入院では,病棟で温熱パックを温めて貸してもらえたので助かった
- 予備のバッグ・袋
- 入院見舞いで大きなものをもらって,帰りの荷物が増えることがある
- 拭くシャンプーみたいなの
- 風呂は毎日入れない
- 体は清拭してもらえても,髪はギトギトしてしまい痒みも出てしまう
- こういう髪用ウェットシートみたいなのを持っていくとよかった
- 鏡
- ドライヤはステーション貸し出しで,各病室で使う感じだった
- 病室に鏡がない場合もあると思うので,持っていくとよさそう
入院・手術費用
※2019/11/28更新
保険の内容等それぞれの場合でだいぶ変わると思いますが,参考程度に記載します.概算です. また,入院前後の検査費や診察費は別途かかっていて,ここに記載しているのは入院期間分のみです.
項目 | 金額 | 備考 |
---|---|---|
入院グッズ | -2,500 | ICU用の必要備品など |
入院費保証代行 | -5,000 | 保証人を付けたくなかったので |
入院手術費 | -1,001,500 | 窓口支払(3割負担) |
通院交通費 | -1,000 | |
見舞金 | 20,000 | |
見舞お返し | -7,000 | |
民間保険給付金 | 230,000 | 疾病入金保険 |
健康保険高額医療費還付 | 935,000 | |
健康保険給付金 | 4,000 | |
共済会給付金 | 20,000 | |
(合計) | 192,000 |
ほぼ民間保険の給付金分ですが,自費が掛からなかったどころか,なんと20万円ほどプラスになってしまいましたw
入院・手術に関して発生した問題
- 医療スタッフの情報連携
- 看護師をはじめとする病院スタッフが「○○を確認します」とか「○○を伝えておきます」とか言っても,それが実際に行われるのは60%くらいで,情報連携や情報共有が十分に行われていなかった
- ひどかったのが,家族が来た時に「医師が説明に来ます」「呼んであります」「まだ来ませんか」とか散々言われたのに,実際呼んでおらず,2時間くらい無駄に待つことになった
- 他の病院がどうなのかわからないけど,病院は基本的に横の連携がすごく弱いので,患者自らが積極的に音頭とったり調整したほうが,患者自身が損しなくて済む
- テープかぶれ
- 貼っているテープを手術翌日に剥がしに医師が来ます,と聞いていたのに来なかった
- その翌日も,そのまた翌日も結局どうするのか聞いているのに「確認します」でほったらかしにされた
- 結局退院時に剥がすことになったけど,テープかぶれを起こしていて,5x5cmくらい皮膚が剥がれたようになってしまった
- これも情報連携・情報共有の不十分さの弊害だったと思う
- 首肩背中の痛み
持ち物
にも書いた通り,頚椎が変形していて首肩が弱いので,非常に強い痛みが出てしまい,苦痛が強く,睡眠にも大きな影響が出てしまった- 退院時には持病の偏頭痛も起きてしまい,帰路が大変だった
- 首肩背中に限らず,同じ姿勢を長時間続けることで何か問題が起きそうな人は,対策を事前に考えておく必要があると思う
帰宅後に残存していた課題
※2019/11/28更新
2ヶ月ほどですべて問題なくなりました.
- 咳やくしゃみをするときの痛み
- 胸部(背中側)と鼠径部の傷に響く
- 術後からだんだんと痛みは弱くなってきている
- 鼻をかむときも同様
- 左手首うっ血
- 静脈点滴を抜いた翌日くらいに気づいた
- 左手手首が3x5cmくらいうっ血している
- 左手の指の痺れ
- 静脈点滴を抜いた翌日くらいから発生している
- 特に圧迫していないのに,親指から小指までランダムに突発的に痺れが発生する
- 5分くらいで治る
- 1日10回未満くらい
- 左手血管痛み
- 静脈点滴針を抜いた近くの血管が,手を動かす(屈曲・伸展する)と若干痛む
- 首肩背中の痛み
- 入院時ほどではないが,まだ継続して痛みがある
- 温熱パックでケアを続けている
- 目の見え方の違和感
- 偏頭痛が起こる前の閃輝暗点の初期に少し似た,弱い視覚障害を常に感じている
- 目が見えにくいというか,ピントが合っていないというか,少しモヤがかかっているという感じ
- たまに飛蚊症の1匹だけ,みたいなものが視界に現れる
- 目眩
- 立ったり歩いたりしていると目眩が起きる
- しばらく座って休む必要がある
- 頭痛
- 鈍痛が続いている
- 首肩の痛みに連動しているかもしれない